インド最初期仏教への誘い

現存するパーリ語仏教経典からの引用による仏教紹介。

在家一般人のみを説法対象とした処世訓的なシンガーラ経(Singala-sutta) 別名「六方礼経」の概略[次第説法16  布施③]



この回でご紹介した在家一般人のみを説法対象とした処世訓的な、シンガーラ経 (Singala-sutta) 別名「六方礼経」の概略をご紹介したいと思います。


(シンガーラ経 長部パーリ仏典5 片山一良訳 大蔵出版P20〜


梗概
シンガーラ経 (Singala-sutta) 別名「六方礼経」


本経は、仏が、ラージャガハに近い竹林のカランダカニヴァーパ僧院(竹林精舎)に住んでおられたとき
資産家の子シンガーラカに説かれたものである。


その内容は、かれが父親の遺言によって六方 (東方、南方、西方、北方、下方、上方)を礼拝していたとき、

仏がこれをご覧になり、 聖者の律においては、そのように礼拝するのではなく、 母父、師匠、妻子、友人・知己、奴隷・雑役夫、沙門・バラモンという六者への奉仕として礼拝すべきことを述べられ、

かれの要請に応じて、 破滅のない人間の道を平易に教えられたものである。


前半では、まず、
聖なる弟子は、四の業垢(殺生・偸盗・邪姪・妄語)が捨てられ、


四の理由 (欲・怒り・愚かさ・恐れによって非道に行くこと)により悪業を作らず、


六の財の破滅門(酒・非時の歩行・見世物・賭博・悪友・怠惰)
に親しむことがなく、


六の方向を保護し、両方(この世・あの世)の世を征服するために、実践している者であるとし、
聖なる弟子が離れるべきそれら十四の悪事について、具体的に説明される。


つぎに、見せかけの友に四種(何ものであれ取ってゆく者、言葉だけを大事にする者、甘言を語る者、破滅させる仲間)があること、


また、善い心の友には四種(援助する者、苦楽を共にする者、為になることを話す者、憐れみのある者)があることが述べられる。


後半では、本経の中心ともいうべき六方の保護に関する説示がなされる。


聖なる弟子は、


(1) 東方を母父として、
(2) 南方を師匠として、
(3) 西方を妻子として、
(4) 北方を友人・知己として、
(5) 下方を奴隷・雑役夫として、
(6) 上方を沙門・バラモンとして、


保護しており、六の方向から恐れが来ることがなく、安穏、無畏に住む者である。すなわち、


(1) 子は東方である母父に奉仕すべきであり、そうすれば奉仕された母父は子を憐れむ。このようにして東方は保護され、安穏で、恐れのないものになる。 同じく、


(2) 弟子は南方である師匠に、


(3) 夫は西方である妻に、


(4) 善家の子は北方である友人・知己に、


(5) 主人は下方である奴隷・雑役夫に、


(6) 善家の子は上方である沙門・バラモンに奉仕すべきであり、
そうすれば奉仕された沙門・バラモンは善家の子を憐れむ。


このようにして上方は保護され、安穏で、恐れのないものになる。そのように六法を知るべきである、と。


この説示の終わりに、シンガーラカはただちに信者となるべく三帰依を唱えたとする。


本経は、一般に「六方礼経」(漢訳「尸迦羅越六方礼経」)として知られるものである。
「在家者の律」(ギヒ・ヴィナヤ)とも呼ばれ、ここには在家者にふさわしい行為として語られていないものはないとも言われている。


たとえば、
財産(収入)の四分の一は食べ物(生活費)に、四分の二は仕事(事業費)に、四分の一は貯蓄(災難用)に当てること、


あるいはまた、夫は妻を敬い、ふさわしい飾りを与え、
妻は夫を憐れみ、仕事をよく処理すること、などの具体的な教訓も含まれ、


信者の生活に適う教えに満ちていることから、小さな経ではあるが、伝統の仏教国では、家庭生活に不可欠なものとして尊重されている。

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